山口県山口市阿東地区の廃校に本拠を構え、付近の孟宗竹を使って自転車を作っている「Spedagi Ato」を紹介します。前回の記事で紹介したインドネシアの「Spedagi」がめざす理想に共感し、「持続可能な社会の実現」を目的として運営しています。この団体は、自転車で実際何をしているのでしょう?代表の明日香建輔さんに聞きました。
<自然体験が大事>
「“海をきれいにするプロジェクト”を成功に導くには、「海で遊んだ体験」が重要。私は小さい頃よく海に潜って魚を取って遊んでいたから、海をきれいにしよう!と言われたら、すぐにピン!とくるし、もっときれいにしたい!という心が湧く。でも、今の子たちはどうでしょうか。私は「自然を体験すること」こそが、大切だと思う。」
こう熱く語りました。
<モノをつくる人として>
明日香さんは、ソフトウェアの開発者で、現在も会社を経営しています。「モノ作り」(ソフトウェアも「モノ作り」だという。“ムスビワールド”などと共通する考えでしょうか)の経験、それを楽しむ心を若者たちが失っているのではないか、と危惧しています。
それどころか何事にも効率が優先されるため、子供たちはモノを作る場面すらないのかもしれません。このことは思っている以上に問題です。自然の素晴らしさ、すごさ、自分で工夫すること、考えること、、、それらを奪っているかもしれません。明日香さんは、このような現代は持続的ではなく、若者には「自転車は作るモノ」という考えと選択肢を与えたい、といいます。
「Spedagi」が発祥したインドネシアでは、竹バイクはもちろん、簡単にモノが手に入らないため、制作に必要な道具も手作りしているそうです。本気で実現したい気持ちさえあれば、知恵を振り絞って何とかしてしまうのだそうです。そこに大いに感じるものがあったようです。
<問題解決のために始めたワークショップ>
そのような問題意識と、インドネシアでの出会いが重なり、「Spedagi Ato」はワークショップを始めました。自然体験とモノ作り。この二つを同時に満たすワークショップの内容は「竹の自転車作り」と「その自転車に乗って、地域の課題を探しに行くツアー」でした。自分の作った自転車で町を見て周り、課題を探して解決策を考える、という主旨です。
近隣の田圃の周りの水路の不具合や、同地域の圧倒的な高齢化と過疎化などが課題として見つかり、参加者はその解決策について、真剣に話し合ったといいます。もちろん、自然の中を自転車で走り、単純に気持ちの良い体験を参加者同士で共有したことも忘れられない思い出となっているでしょう。
<自転車は売り物じゃない>
そして、「自転車は売らない」といいます。ちょっと面食らいました。仮に売るなら約15万円だそうです。やはり高いでしょうか?シティサイクルを基準にすると高く感じますね。
しかし作るのは原材料の竹を入手して、干し、自分の手で加工して作る世界で唯一の「マイバイク」です。“めんどくさい”ことこの上ないですが。バイクができる工程は様々な体験をし、想像力や創造力が育まれるでしょう。また、「自然素材」や自然について、知識だけではなく理屈抜きに理解することにも繋がるでしょう。そうなると、愛着のあるマイバイクはもはや15万円でも安いといえるかもしれません。
「売らないけど一緒に作ろう、作り方は教えるよ。そして色々感じてほしい」
このような考えが「自転車は売らない」発言の背後にありました。
<行動し続けること>
「Spedagi Ato」の今は行動し続けてきた結果だといえます。「Spedagi」のめざす理想に共感し、日本でも実現させたいと思ったから、インドネシアまで自転車作りの現場を見に出向きました。次には、地元の竹材を使用するため、竹取名人を探して指南を仰ぎ竹林に自ら入りました。そして先ず自転車を一台作り上げ、現在もどんどんアップグレードさせています。その行動力から私たちも学ぶべきだと感じました。
またちょっと変わった活動もしています。本拠地としている廃校には、驚くほどの本がありました。これも売り物ではなく、地元の人の財産「本」、処分するしかなくなった本を引き受け、図書館のように置いています。いつか役に立つ日を夢見ているという本の数は6万冊を超えます。
このような行動力が、同じ志を持つ人たちを引きつけているようです。私たちもその1グループだったかもしれません。生長の家のめざすこと、取り組みを話すと、大阪で竹自転車を作っているジェルソンさんというアーティスト(本人は職人と呼ぶと嫌がるそう)、長崎県で電動自転車(制作過程も可能な限りオフグリット)を作っているISOLAさんを紹介してくださいました。(そのうち会いに行きたいです。)
「私たちもまずは、1台つくりたいと思っているんです。」と伝えると、「作っていく中で、やり続けていく中で、答えが見えてきます。」と優しく、説得力のある言葉が返ってきました。
By 1048