日常的な自転車の利用は、環境に負荷をかけない低炭素の移動手段であるだけでなく、その利用の仕方によっては、デジタル社会がもたらす弊害から身を守ることにもつながる。

 この記事では『スマホ脳』(アンデッシュ・ハンセン著/久山葉子訳 新潮文庫 2020年11月)という書籍を読んで、上記のような感想を持った私に起こった変化について、お届けしたいと思います。

 スマートフォンなどのデジタル機器を用いてSNSを利用することは、世代を超えて広く一般化しています。そして若年層を中心に、1日数時間以上スマホの画面を見ている人も少なくありません。

 しかし『スマホ脳』によれば、人類の長い進化の歴史からみると、私たちがスマートフォンやタブレットなどのデジタル機器を日常的に利用するようになったのはごく最近であるため、私たちの脳はこの大きな変化に十分に適応していない、といいます。さらに、FacebookやInstagram、Twitter等を運営している企業は、人間の脳の特性を利用して、私たちがより多くの時間それに没頭してしまうような様々な仕掛けを、SNS上に用意しています。

 このため、スマートフォンやSNSを無制限に利用していると、私たちの心身の健康や日常生活に悪影響を及ぼす恐れがあるようです。それは、集中力や記憶力の低下、睡眠障害、ストレスの増加や幸福度の低下、さらにはうつ、スマホやSNS中毒などです。

 たとえば、次のような自覚症状がある場合、もしかするとそれはスマートフォン等のデジタル機器の使い過ぎによるものかもしれません。

  • ひとつのこと(文章を読む、人の話を聴く)に集中することが難しくなった。
  • 寝つきが悪くなった。睡眠が十分にとれていない。
  • 気分がすぐれない時が増えた。
  • 物覚えが悪くなった。
  • 何かをしているときでも、ついスマートフォンでメッセージが来てないか、あるいはSNSの自分の投稿に「いいね」がついてないか確認してしまう。

 一方で、デジタル機器を用いてインターネットやSNSを利用することによって、私たちは、必要な情報を調べたり、買い物をしたり、遠く離れた家族や友人などとメッセージやビデオ通話でコミュニケーションをとったりと、様々なメリットを享受しています。本書でも、デジタル機器は、上述のようなデメリットやリスクがあるとはいえ、私たちの生活に必要不可欠なものとなっていることから、それと決別するのは現実的ではない、と言っています。重要なのは、デメリットやリスクも理解したうえで、適切な対策を講じることであるというのが著者の主張でした。

 実際、このような悪影響を受けないようにする方法も紹介されています。例えば、デジタル機器との物理的な距離を保つことです。具体的には、スマートフォンの電源をオフにする時間を毎日1~2時間くらいとる、寝室にスマートフォンを持ち込まない、スマホの設定でSNSの利用時間に上限を設ける、待ち受け画面に表示される通知をオフにする、などです。

 そしてもうひとつの方法――私が最も印象に残ったもの――が運動です。本書では、デジタル機器から受ける弊害に対抗する最もスマートな方法として、「身体を動かすこと」を推奨しています。運動には、健康増進やストレス解消に効果があるというのは良く知られているところだと思います。それだけでなく、運動には、集中力や記憶力を高めたり、ストレス耐性を向上させる効果があると、本書では書かれています。

 基本的には散歩など、身体を動かすことならどんなことでも効果があるそうですが、適度に息が切れ心拍数があがるような運動の方がより効果が高いとのことです。そして、週に2、3回以上の頻度で継続的に取り組むとさらに効果が高まるそうです。

 この内容を読み、私は思いました。環境に負荷をかけない低炭素の移動手段である自転車の日常的な利用は、デジタル機器の使用がもたらす弊害から身を守ることにもつながる、と。

 以降、私の自転車ライフにちょっとした変化が生じました。自転車に乗る頻度が増えたのです。私が本書を通して運動のこのような効果を知ったのは2022年の初頭でした。それまでは、どちらかというと、まとまった時間が取れるときに、がっつりと自転車に乗るというスタンスでした。ですから家の予定が合ったり仕事が詰まっていたりする日は乗れませんでした。しかし、『スマホ脳』を読んでからは、15分でも30分でも、少しの時間でもいいから自転車に乗るように意識するようになりました。その結果、2022年は、自転車の乗った日数が前年より30%程度、増えました(135日→179日)

 これに伴い、私の実生活にも変化がありました。私自身、スマホ利用の弊害からか、ここ5、6年の間に、本を集中して読めなくなったと感じていました。しかし、自転車に乗る頻度が増え、またスマホとの物理的な距離もとるようになったからか、集中力が徐々に戻ってきたようです。体感的には、2022年は2021年よりも、仕事は忙しく、子供の習い事が増えて家の予定も多かったですが、隙間時間などを利用して、前年よりも多くの本を読了することができたのです。

 生長の家では、信仰に基づく倫理的な生活の一環として自転車の日常的な活用を進めていますが、デジタル社会がもたらす弊害に適切に対処するという意味においても、自転車に乗ることは効果的ではないか。

 私自身の変化を振り返りつつ、改めてこのように思いました。

SNI自転車部事務局員 金内崇幸