3年続いたゴミ拾い

山梨県北杜市在住の中井憲治さんは、自転車での毎朝のゴミ拾いを習慣にして3年になります。前カゴ代わりに竹製の背負子を取り付け、サドルの後ろにゴミ拾い用のトングを差して走る姿は特徴的で、地域の人にもおなじみの姿です。

 

ゴミ拾いのきっかけ

中井さんがゴミ拾いを始めたのは3年前、購入したばかりの電動アシストで走っていた時、道の真ん中で車に轢かれて倒れている鹿と、その周りに散乱した捨てられたお弁当のゴミを見たのがきっかけでした。鹿に対してどうしてあげる事もできず、もしここに人間が捨てたゴミが無ければ、この鹿は死ぬことは無かったのではないか。自分はゴミを拾わないといけない、と感じたのだそうです。

以前住んでいたところでも徒歩でゴミ拾いをしていた事があった中井さんは、買ったばかりの自分の電動アシスト自転車を利用すれば、より広範囲を綺麗にすることができると考え、自転車でのゴミ拾いをスタートしました。

 

心の変化

最初は捨てる人に対して怒りを感じたそうです。せっかくの良い行いをしているのだから、清々しくいたい、怒りを持ちたくないと思っても、いつも同じ所に似たようなゴミが落ちていて、ここを通るたびにゴミを捨てる習慣がある人がいるのだと思うと怒りがこみ上げて来てしまう。

拾って来たペットボトルや瓶、缶は、廃棄する前に洗わなければいけません。だらしない習慣がある人の為に、なんで自分が時間を費やさないといけないのかとも思ってしまう。

 

 

しかし続けていくうちに、少しずつ心境が変わっていきました。この豊かな自然のある土地を美しいと感じられること、綺麗にしたい、役に立ちたいと思える自分の心、行動が尊く素晴らしいと思えるようになったそうです。

 

気付くこと

ゴミを拾っていると、色々と気付くことがあります。例えばプラスチックの事。

捨てられているゴミの多くは、プラスチック容器やペットボトルです。捨てられて時間が経過したペットボトルの周りに巻かれたラベルは、劣化してボロボロになって、マイクロプラスチックとなって土に混ざって行きます。間近に接して、それが土壌にどんな影響があるかを学ぶきっかけにもなりました。

豊かな土を作ってくれるミミズは土と一緒にマイクロプラスチックを食べてしまう。そうすると消化管が閉塞や炎症を起こしてしまうという研究もあり、改めてそれらのゴミを拾う事の重要性を感じたそうです。

じんわりと人の輪が拡がっていく

続けていくうちに、たくさんの人との出会いがありました。

通り掛かる人から感謝の言葉を掛けられるようになりました。時には、籠いっぱいになった拾ったゴミを「うちで処分しましょうか?」と申し出てくれる人もいるそうです。中井さんが毎日スイスイ坂道をのぼる様子を見ていた近所の人が、中井さんの影響で電動アシスト自転車を購入して、それを報告してくれた、という話もあります。毎日続けた結果、近所の人からの信頼を得て、顔なじみになった近所の人からは「今日このあと焼き芋するからおいでよ!」とおうちに招かれたりもします。

そして特に嬉しかったのは、中井さんと同じようにゴミを拾うのが習慣になっているお爺さんと出会ったこと。人に喜んでもらえるから続けているというお爺さんの生き方が嬉しく、まだまだ若い自分も益々頑張ろうと思えたそうです。

普段朝一人で拾う時には、時間もカゴに入るゴミの量も限られているので、「もう持てないから今日はここまで」とある程度割り切るようにしているそうですが、最近は周囲に声を掛けて月に1度、自転車でのゴミ拾いイベントを企画するようにしています。1人では躊躇してしまう人も、何人かでなら喜んで参加してくれる人も多く、人数が多いと拾えるゴミも多くなるので、そういう時は、いつもはあまり行かないコースも念入りに拾う事ができるといいます。

「ゴミを捨てる習慣を持つ人より、捨てない習慣を持つ人の方が圧倒的に多い。あとは拾う習慣を持つ人が捨てる人より多くなればいい、そうしたらゴミは無くなると思うんですよ」落ちているゴミの多さに嘆くでも、捨てる人への恨み言を言うでも無く、飄々とした中井さんの言葉が印象的で、道を究めて境地に辿り着いた人の風格を感じたのでした。

宮田