自転車で地元巡りについて

 SNI自転車部では「自転車で地元巡り」をしよう!と呼びかけていますが、これは単なる観光案内ではありません。これは、自転車で地元の自然や文化遺産を訪れ、調べ、知っていく中で、昔はあった(今もあるかもしれない)自然と人間との豊かな関係、付き合い方、考え方を明らかにし、そこから学び、今後の生活に生かしていくきっかけにしていくことです。

それでは、私が行った「自転車で地元巡り」について書きます。

「蠶霊(こだま)大神」の石碑について

 ある日、北杜市大泉町の自宅から隣町の長坂町まで自転車で走ったときに、途中にある建岡神社にお参りし「蠶霊(こだま)大神」の石碑を見つけました。

 「これなんだろう?」と思い、調べたところ、『大泉村誌(下巻)』には次のようにありました。

 「(前略)蚕神は一般に蚕玉様(こだまさま)」と呼ばれ、当村には、「蠶霊天神」(谷戸宮上)「蚕玉天神」(西井出下井出・宮地)と自然石に刻まれた供養塔がある。養蚕農家の減少により、信仰も衰退していった。」

 石碑は供養塔であり、養蚕(ようさん)と深い関わりがあり、蚕神信仰の名残だとわかりました。繭(まゆ)の豊作を祈るとともに、養蚕のために死んでいった蚕(かいこ)の霊を供養する目的で建立されたものでした。

北杜市の養蚕

 養蚕とは、蚕(カイコ)という蛾の幼虫が吐いて作る繭(まゆ)から、絹繊維をとりだすために桑を栽培し、蚕を飼い、育て続けることです。

 北杜市では、江戸時代までは、家庭用の布団に使うため、わずかな桑で少量の繭をとる程度でしたが、近代に入り、産業革命と、明治政府による富国強兵・殖産興業の一環として養蚕が奨励されました。その後は、大量生産のための“品種改良”を繰り返し、養蚕業は伸び続けましたが、昭和40年代後半から衰退します。化学繊維、合成繊維におされたこと、発展途上国から安い絹繊維が大量輸入されたことにより需要が減り、繭の単価は下落しました。

 北杜市の養蚕家も、果物や野菜を作る農家にかわっていきましたが、使われはじめた農薬により蚕に大きな被害が出たのも衰退の原因の一つと言われています。

人間に家畜化された昆虫

http://www.yunphoto.net

 人類が蚕を飼って絹繊維をとることは4~5千年前から行われてきました。カイコは人間の手によって家畜化された昆虫で、野生動物としては生息できません。エサがなくなっても自分で探しもせず、桑の木にとまらせても、エサの桑の葉を探さず餓死したり、簡単に落ちて死んでしまったりします。羽ばたくことはできるが飛ぶことはほぼできません。これは、近代において、大量生産のための品種改良を繰り返したことが原因です。さらに調べますと、遺伝子組み換えカイコも存在することを知りました。遺伝子組み換え技術により、蛍光シルク(光るシルク)がつくられたり、クモの遺伝子をカイコに導入し、強い糸を生み出すことに成功したそうです。

「蠶霊大神」の供養塔に思う

 今回、私は「蠶霊大神」の供養塔を通して、養蚕の歴史を調べ始めました。その結果、先人の自然と調和した生き方が見つかると思っていました。

 ところが、養蚕について、歴史を調べれば調べるほど、「経済発展のために他の生き物をどのように利用しても構わない」という人間中心主義の歴史ばかりが目につきました。欲望満足のために、他の生命を操作する行為は、生命への冒涜だと思います。過度な品種改良や、遺伝子組み換えがこれにあたります。

 一方で、私たちには「良心」があります。だからこそ、死んだ蚕の霊のために供養塔を建立したのでしょう。

 しかし、現実の歴史において、その「良心」は、前者の経済発展至上主義に埋もれてしまったようです。「蠶霊大神」の供養塔も形だけになってしまったというのが私の感想です。

生長の家では、

「(前略)山も川も草も木も鉱物もエネルギーもすべて神の生命(イノチ)、仏の生命(イノチ)の現れであると拝み、それらと共に生かさせて頂くという宗教心である。この宗教心にもとづく生活の実践こそ地球環境問題を解決する鍵であると考える。(後略)」

(「生長の家環境方針」基本認識より)
https://www.jp.seicho-no-ie.org/wp-content/uploads/2019/08/21houshin.pdf

と教えており、カイコについての歴史を知ることにより、人間中心主義の生き方を改め、生命を礼拝する生き方の重要性を痛感しました。

 自転車で地元の自然や文化遺産を訪れ、そこにある生き方、暮らし、歴史から、自然と人間との関係を学び、現代に生かせることがあるかもしれません。

河野 知足

(参考図書)
・『大泉村誌(下巻)』大泉村誌編纂委員会(発行)大泉村
・『お蚕さんと女たち(北杜の近現代養蚕業)』 北杜市郷土資料館
・『カイコの科学』日本蚕糸学会 朝倉書店
・『八ヶ岳南麓の蚕玉さま』きたむらひろし著 陶房酔翁