不思議な石碑

 私はブラジル生まれの日系三世で家族と共に30年前に来日しました。来日当時から仕事の関係で山梨に住んでおり、以前から県内を移動している時に石碑をよく見かけていたのですが、車での移動が多かったため、停まることは難しく、「あれは何だろう」と思いながらも、調べませんでした。

 しかし今は車ではなく自転車を多く利用するようになったため、簡単にどこでも停まれます。そんな中、SNI自転車部で「自転車で地元巡り!」という企画が始まりました。自転車に乗って、地域固有の自然豊かな地や文化遺産を訪れて紹介しよう、というものです。

 自宅付近のあの石碑を詳しく知りたいという気持ちが蘇えってきたので、現場に行き、写真を撮って、地元の方に聞いてみたら「道祖神」であると分かりました。詳しく調べるために町の図書館にも行きました。

南アルプス市曲輪田新田の道祖神、丸い石が祀られています。

 

 調べてみると、道祖神は、村などの集落の境あたりに置かれ、疫病が集落に入ってこないよう祀られた、村守り神であり、村の繁栄に願う対象になると分かりました。旅などの交通安全の神としても信仰の対象にもなるようです。

南アルプス市図書館

 

実際に行って

 道祖神は関東・中部地方に多く見られる物で、山梨県では3,000基を超える道祖神があると分かりました。また、山梨市では江戸時代初期、1660年に作られた、日本最古と噂される石祠があり、私はその最古の道祖神を、是非、自転車で参拝しに行きたいと思いました。そのために往復97km!走り、3時間ほどかけて山梨市堀内地区に行きました。

 その最古の道祖神は甲府盆地を見下ろす、景色の見晴らしい場所にありました。その場所で昔から地域の住民を護っていることを思い、感動しました。

山梨市堀内地区、県では最も古い道祖神

 

山梨市堀内地区、中に見える丸い石

 

研究家のことば

 旧街道や史跡の探索をライフワークにしているMasutani Masahiro氏のウェブサイト(*1)の「不思議な甲州の道祖神」に、山梨県の道祖神研究家、中沢厚氏の以下のことばが紹介されています。

 「道祖神には双神の石像道祖神、単神の石像道祖神、丸石の道祖神、石棒の道祖神、陽石の道祖神、異形石の道祖神などがあり、その他、「道祖神」と書いた文字碑などがある。そして、道祖神が全県的にあるのは山梨県と長野県だけで、部分的には神奈川、静岡、群馬の三県に分布し、これら5県に道祖神信仰が残っているという。そして、長野や神奈川では江戸時代につくられた男女二神像を主とするのとちがって、山梨では、丸石と石棒・陽石のような「得体のはっきりしない神体」を祀るものがはるかに多いという。山梨にももちろん双体(神)道祖神はあるのだが、丸石の方が主力とされているようで、県内に700体ほどあると考えられている。」

 

甲斐市

 

知ることの意義深さ

 たしかに丸石がよく祀られています。ブラジル生まれと育ちの私にはこの謎は深くこれ以上は解明できませんが、いずれにせよ、かつての集落の人々にとって、道祖神は願いを込めて祈る対象であり、感謝の気持ちでお祭りを行い、集落の絆を深める大事な存在だったのだと知りました。その一方で、現代に生きる私達は日々の暮らしに追われ、道祖神は自分に何の関係もないと思っている人が多くいるのではないかと感じました。

北杜市

 

 それでも現在でも、年に一度、お祭りを行い、団子を焼いたり,習字を燃やしたり,獅子舞を舞い踊ったり、各集落で違いが見られても、子供の健全育成のために道祖神を祀るお祭りは今でも受け継がれているようです(*2)。私も、何年か前に自治会の役員になり、子供達が神輿を担いで地域を回るお祭りの係をしたことがあります。当時はただ面白い行事と思って参加しましたが、調べると深い意味のある大事な文化だと今になって分かりました。

南アルプス市飯岡地区


 ブラジルでは、教会はそこら中にありますが、石祠はありません。だから、ブラジル生まれの私には道祖神は当初不思議に感じました。しかし、今回足を停め、調べてみると、その意味だけでなく、忘れ去られている風習などを知りました。「知ることは大事」。「自転車で地元巡り」に取り組んでそう強く思います。それによって、地域への愛着やつながりも強くなっていきます。

南アルプス市曲輪田地区

 

Lauro Sakamoto

 

参考

(*1)http://www.masupage.com/kosyudo/omou/kosyu_dososhin.html

(*2)『ふるさと山梨Yamanashi -郷土を愛し,未来を拓く-』(平成29年2月 山梨県教育委員会発行)